配管の熱膨張と熱伸縮処理
- 2016.07.10
- カテゴリ: 施工|Construction
|材質の膨張・縮小
基本的に物質は、温度変化によって膨張・収縮をします。
当然、配管においても温度変化による膨張・収縮があります。
温度変化による材質の膨張・収縮は全方位に起こり得るもので、その熱膨張係数には「線膨張率」と「体積膨張率」があります。
配管の場合は、その形状の特性上、特に軸方向(長手方向)の伸縮量が問題となるため「線膨張率」を考慮した設計・施工を行う必要があります。
従来、建築設備における配管の材質と言えば、鉄管に代表される通り、炭素鋼鋼管が一般的でしたが、現在では、多様化するニーズに応える形で、様々な材質の配管が用いられております。
結果的に、材質により膨張率に格差があり、配管の伸縮量も異なって来ることを注意する必要があります。
|配管の熱膨張係数と伸縮量
配管として一般的な材質の線膨張係数は、右表の通りとなります。
樹脂系の塩化ビニルが圧倒的に大きいことは容易にイメージできるかと思います。
また、同じ金属でも、ステンレス鋼と銅はほぼ同じ線膨張係数ですが、炭素鋼と比較すると50%ほど伸縮量が大きくなります。
以下は、一般配管用ステンレス鋼鋼管(SUパイプ)の温度差による伸縮量となります。
これは直線配管10m当たりの温度差から生じる伸縮量を示したものであり、例えば、20mの直線配管で温度差が60℃あると、伸縮量は20.8mmになることを意味します。
|配管の伸縮対策
熱膨張による配管の伸縮は、特に温度変化が大きくなると予想される蒸気配管、給湯配管、冷温水配管、高温水配管の直線距離の長い配管では適切な対策が必要となります。
仮に対策を講じなかった場合、配管の各所に強い力が加わり、配管の座屈、接合部の変形、支持点や接合機器などの破損、最悪、躯体破損の原因となってしまいます。
対策として、一般的なのは、ベロース形伸縮継手の設置です。
べロ-ズ形伸縮継手は配管の軸方向の変位を吸収する伸縮継手で、構造により単式と複式の両形式があります。
設置は単式では約20mに1個、複式では約40mに1個の割合が目安となります。
この時、伸縮継手 は躯体にしっかりと固定して、伸縮を有効に吸収できるようにします。
その他、配管の可とう性を利用した方法、例えば配管自体を「コの字」型に迂回させることで、伸縮量を吸収する方法もあります。
主管から分岐する枝管の場合は、伸縮により稼働応力を逃がす意味で、スイベルジョイント方式で施工するのが一般的です。
例えば、拡管式継手「BKジョイントⅡ」にて、配管の可とう性により伸縮を吸収する場合には、「BKジョイントⅡ」の回転角度、曲げ角度は2°以下で計算し、配管長を決定します。
下記に曲り配管部の計算例を示しますが、主管部からの取り出しについても同様に計算することで求めることができます。
1. 配管の熱膨張による伸縮量
〔計算式〕⊿L=α・L・⊿t …(1)
⊿L:管の伸縮量(mm) α:熱膨張係数(温度範囲0~100℃:17.3×10-6/℃)
L :管全長(mm) ⊿t:温度差(℃)
(1)式より L=20,000 ⊿t=50℃
⊿L=17.3×10-6×20,000×50=17.3(mm)
2. 曲がり配管2ヶについての配管寸法
1.で求めた伸縮で生じる力を吸収するために、パイプ①と継手の形成する曲げ角度が継手の許容曲げ角度以内(θ=2°)
となるパイプ①の寸法を求めます。13~60Su
〔計算式〕X=Y/sinθ …(2)
X:パイプ①の寸法 θ:継手許容曲げ角度(sin2°=0.0349)
Y:継手1個にかかる伸縮量(Y=⊿L/n) n:継手の数量
(2)式より Y=⊿L/n=17.3/2=8.65
X=8.65/0.0349=247.85(mm)
∴X=250(mm)以上とする
ベローズ形伸縮継手を取り付けるか、配管の可とう性を利用した工法で収めるかは、現場の状況に応じて使い分けが必要です。
近年では流体温度が常温と差が大きな高温水配管も増えて来ておりますので、熱伸縮対策には、より一層の注意が必要となっております。
適切な対策を講じることで、配管の安全性と耐久性を確保し、施設の安定した運用を実現することが可能です。現場の状況や要件に応じて、最適な対策を導入することが重要です。
tetsuo yoshida