経営「プレス加工技術」
- 2022.08.24
|経営
企業は、その目的を果たすために、経営理念に基づいた戦略を立案し、それに沿って事業活動を推進します。
そして、それらの活動には、資金調達、販売、人材管理、経営管理などの諸々の力の集合体である経営資源が不可欠となります。
経営資源を提唱したエディス・ペンローズによれば、企業の成長に限界が来るのは物理的な制約からではなく、相対的に経営資源が不足するからと示しています。
その経営資源ですが、以前は、「ヒト」「モノ」「カネ」といった有形資産のことを指してしました。
しかし、近代経営においては、テクノロジーの飛躍的な進化などから、無形資産である「情報」の重要性が高まっています。
「情報」とは、知的財産とも称され、技術、人材、組織力、顧客とのネットワーク、ブランドなど企業の所有する顧客データ、社会、地域、業界、顧客などとの関係やノウハウなど無形資産の全般を指しています。
顧客が望み、他社が提供できず、自社だけが提供できる価値をバリュープロポジションといい、それが企業の強みとなります。
製造業であれば、技術的なコアコンピタンス(コア技術)であるともいえます。
このバリュープロポジションであるコア技術を創造できるか否かで、経営に大きいな影響を及ぼします。
|コア技術の重要性
1960年代、1970年代の日本の経済成長を支えてきたのは、既存価値の概念を覆す様な製造業のコア技術であったといわれています。
コア技術とは、自社しか持たない強みとなる技術です。
しかしながら、VUCA環境といわれるくらいに経済環境は激しく変化しています。
その時は、自社しか持っていなかったコア技術もいずれは、模倣されることになります。
ベンカンの起源でもある溶接式管継手は、「塑性加工」技術にて1951年より生産を開始しました。
「塑性(そせい)加工」とは、「対象の金属材料に大きな力を加えて変形させることによって、目的とする形状に成形加工する」ことです。
日本の塑性加工技術は、自動車業界の技術発展と共にあり、軽量化や低コスト化を塑性加工技術で克服して、世界に冠たる自動車輸出大国と成って、先進国の仲間入りを果たして来た歴史は、皆様の知るところです。
そして、事業を発展させる過程で、その技術を高め、冷間曲製法、熱間曲製法、液圧バルジ製法などと称される様々な製法を開発することになります。
更に、その技術を流用することで、1975年からモルコジョイントの生産へとつながっています。
正にベンカンにとって、この「塑性加工」はコア技術となります。
その技術力は、「(社)日本塑性加工学会」様の皆様にベンカンのMJ工場(群馬県太田市)をご見学いただくなど高くご評価いただいております。
さらに、モルコジョイントの特徴は、製造工程だけではなく、配管の接合においても、継手にパイプを差し込んで、専用締付工具でプレスすることで接合するものです。
つまり、プレスする工程こそが、塑性加工であり、それは、国が発明を保護する特許制度により特許権を得た製品となりました。
しかしながら、現在は該当期間の満了により、模倣製品が複数存在しており、コア技術の価値は、明らかに低下しています。
ビジネスにおいて、ある意味、模倣策は常套手段ですので、これ自体を否定することは出来ません。
寧ろ、ベンカンに限らず製造業が成長し続けるには、コア技術を創造し続けることと、環境の変化と共に価値が低下してしまうコア技術を磨き上げ続けることであると考えます。
我が国は、グローバル化の進展や市場等の成熟に伴い、多様化している顧客ニーズやIT化による製品のコモディティ化など、激しい環境変化への対応が求められる中で、日本の企業は自社製品や経営資源のみだけでは、新たな価値(イノベーション)を生み出せなくなってきているなど、厳しい競争環境下に置かれております。
これは、経済産業省が、2016年に公表した「オープンイノベーション白書」の一節です。
|プレス加工技術
ベンカンにおいては、先述のモルコジョイントに代表される配管における接合技術をコア技術とすべく取り組んでおります。
その上で、コア技術の価値を高めようとする中で、その成熟度から苦慮しておりました。
しかしながら、例えば、前出の「(社)日本塑性加工学会」様とは、アカデミック(学術的)に深い知見や実験で技術データを持たれた諸先生方と交流を持たせていただきました。
また、大学でのパネルディスカッションや塑性加工技術発表会、技術書籍への記事寄稿などの機会をいただくこともできております。
そこで自覚したのが、従来の限られた範疇の価値観だけで考えていた自分たちの浅はかさです。
ベンカンの既存技術も、領域や切り口を変えることで、まだまだ発展の余地があることに気付かされました。
また、他業界から技術を取り入れておきながら、建築設備業界は独自に発展して来た「配管接合技術」を業界外に広く啓蒙する責任を怠っていたのではないかとも感じ始めました。
また、「塑性加工」に拘り過ぎていたことも反省点です。
事実、お客様に「塑性加工」がコア技術であることを訴えてもなかなか伝わりませんでした。
そこで、敢えて、理解していただきやすいように「プレス加工」と称して、訴求することにいたしました。
今後、ベンカンでは、閉鎖的な社内開発だけではなく、社外からも積極的に技術や知識を吸収することで既存のコア技術である「プレス加工」の発展と新しいコア技術の創造に努めて参ります。
それによって、建築設備業界内でイノベーションを起こすことを目指すと共に、業界外に向けても、何らかのイノベーションを起こせるかもしれません。
石崎 豊(Yutaka Ishizaki) 製造部 部長代理 兼 MJ工場 工場長