技術者に求められるもの
- 2023.09.19
国土が狭く、天然資源が決して豊富でもない日本にとって、その国力を支えているものは何かです。
戦後の高度成長は正に人が支え、人が後押し、牽引した成果であり、その典型が諸外国からも認められる優れた技術者たちの存在でした。
誰もが知り、誰もが認める技術者と言えば、パナソニック株式会社の創業者であり、「経営の神様」とまで言われる「松下幸之助」氏かと思います。
特に人材育成に長けた方であると私は勝手ながら思います。
現代以上に技量は高いが高慢な職人気質の技術者が多かった時代に、その様な人達に「謙虚さ」を学ばせ、優秀な技術者を育成したエピソードは限りなくあります。
また、「本田宗一郎」氏も技術者出身です。
創業させた本田技研工業株式会社は、他の自動車メーカーとは一線を画したイメージが強い企業です。
それは、「〇〇自動車」と他社名が多い中、「技研」と付きます。
また、創業者の言葉通りに、現在まで「社長は、技術畑出身」となっています。
これらは、社内外に対する明確な「バリューポジション(独自の強み)」の宣言であるのかと思います。
そんな本田宗一郎氏が技術者から身を引いた際のエピソードがあります。
スーパーカブによる大成功を収めたホンダはそれを足がかりに四輪事業にも参入しN360を皮切りに成功を収めます。
しかし、以降も、予想を上回るように世の中の環境は大きく変わって行きました。
対して、自分でも気づかぬ内に、過去の成功体験から経営判断を布いていた自分を悟り、本田宗一郎氏は一線から身を引いたのだそうです。
それでは、日本あるいは、技術力をバリュープロポジションとする企業にとって、どのような技術者が求められるのかです。
日本電産株式会社を率いる技術者出身の「永守重信」氏は、3人で会社を設立した時に「世界一になる!」と目標を掲げたのだそうです。
何を根拠にと思われるかもしれませんが、物質的には「無」からの出発と認識しつつも、「世界一」に挑戦する気概と気迫、独自の発想、そして技術力だけは備えていると信じられていたのだそうです。
私は、技術者に必要な資質とは、「探究心」であると考えております。
誰もが五感で触れても感じなかった事象に対して、疑問を持ち、その正解を求めようとする資質なのではないかと思います。
例えば、ベンカンのベテラン技術者が、コピー用紙を見て、その縦横の比率に疑問を持ちます。
見方によれば、そんなことすら知らないのかと一蹴されるかもしれませんし、規格なのだから、どうでも良いと捉えられるのかと思います。
しかし、その縮尺に至った根拠を追及する「探究心」の姿勢こそが、実は技術者としての資質なのではないかと思います。
勿論、技術者としての専門的な知識を蓄積することは重要です。
しかし、義務教育の如く、一方的に詰め込まれるのではなしに、自らが疑問に持ち探究して明らかにした結果とでは、仮に結論は同じでも、そこに至るまでの過程も、そして、これからの成長をも大きく左右することは間違いありません。
これは技術者に限ったことではありませんが、成長するために必要なことは、自ら高い目標を掲げ挑むことができるチャレンジ精神であると考えています。
行動する前から、出来ない理由を考えているようでは、決して高い目標を達成できる訳もなく、自ずと自らの成長を妨げてしまいます。
そのためにも必要なのが、あたり前の様に溢れる様々な既存の考え方を新しく組み合わせて独自性を発揮する「アイデア力」であると考えます。
また、技術者には、1人で籠ってコツコツと研究するイメージがありますが、少なくとも企業にとっての技術者は、企業の目的である「顧客の創造」に貢献しなければなりません。
そうなれば、顧客との接触機会を増やさなければなりませんし、その窓口である営業や様々な部署の仲間との「協調性」も重要視されるはずです。
京セラ株式会社の創業者である「稲盛和夫」氏も技術者出身です。
その京セラのサイトには、私の考えを裏付けてくれるかの如く、「京セラの技術者に求められる資質は『チャレンジ精神』、『創造性』、『やる気』、『粘り強さ』、『グローバルな考え方』、『人間性』」と掲載されています。
正直、技術力に限ったことではありませんが、現在のベンカンの企業力は、お客様が求められる価値に全て応えられるレベルにはありません。
しかし、「あるべき姿」と、その「現状の姿」のギャップを正しく認識し、謙虚に、そして決して妥協することなく取り組み続けることが、ベンカンの技術者に求められているものであると自覚しております。
吉田 哲夫(Tetsuo Yoshida) 技術部 部長