経営「ユーザビリティー」
- 2024.10.14
|マーケティング
事業の動向に影響を与える様々な要因を「環境」と称します。
高度経済成長期には、モノ不足からもたされる「作れば売れる」時代が続きました。
そして、国際的にも日本の製造業の高い技術力が評価され「良いモノを作れば売れる」時代に遷りました。
しかしながら、現代では技術力だけに頼ったビジネスモデルでは、既に限界を迎えていることは明らかです。
現代の環境を、1990年頃から使われた軍事用語を流用してVUCA(ブーカ)環境と表現される場合があります。
VUCA環境とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字からの造語です。
それ故に、マーケティングの重要性が高まっています。
しかしながら、未だに日本では、「マーケティング」のことを複雑に考えられたり、市場調査のことだとか、営業だけのことだとか誤って捉えられている方々が少なくありません。
対して、マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏は、「ニーズに応えて利益を上げること」とシンプルに表現されています。
|ニーズに応える
そもそもニーズとは何かです。
心理学者アブラハム・マズローは、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、その欲求を「マズローの欲求5段階説」として理論化させました。
それは、生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現欲求→自己超越と1つ下の欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする基本的な心理的行動を表しています。
また、これらの段階には、欠乏の欲求と、成長の欲求があるとされています。
この人間の欲求がニーズであり、それに如何に応えるのかが製品やサービスの開発の起点なのかと考えます。
マーケティングにおいて、製品やサービスを提供する概念に「プロダクトアウト」と「マーケットイン」があります。
一般的に「プロダクトアウト」とは、供給側の立場の発想で製品やサービスを開発するモデルです。
対して、「マーケットイン」とは市場や顧客という需要側のニーズに応えた製品やサービスを開発するモデルとなります。
これだけを比較すると、「マーケットイン」が正しい開発のモデルで、「プロダクトアウト」が誤りであるかのように思えます。
しかし、ニーズには、顕在ニーズと潜在ニーズがあるとされています。
顕在ニーズとは、欠乏しているからこそ顧客自身が欲しいニーズであり、「欠乏の欲求」に該当するかと考えます。
対して、潜在ニーズは、顧客自身も自覚していない、欠乏していないニーズでもあるので、「成長の欲求」に該当するのかと思います。
「マーケットイン」だからといって、顕在ニーズにばかりに対応した開発をしていると他社とは差別化できない、「カスタマーマイオピア」の提案になってしまいます。
「マスタマーマイオピア」とは、顧客近視眼ともいわれ、目の前の顧客が言うことが全てと捉え、その顧客が言っていることだけに忠実に対応することを意味します。
対して、潜在ニーズを突き止めて開発することができたら、それは「プロダクトアウト」ながら「バリュープロポジション」の提案が可能となります。
「バリュープロポジション」とは、自社が提供できて、他社が提供できない、顧客が望んでいる価値のことです。
また、「ユニバーサルデザイン」という概念もあります。
その定義は、文化・言語・国籍や年齢・性別・能力などの違いにかかわらず、出来るだけ多くの人が利用できることを目指した製品やサービスを開発することとなります。
一見、「カスタマーマイオピア」の提案にも思えますが、価値のない顧客近視眼レベルではなく、それを超越した顧客近視眼の開発であるとも捉えられるかと思います。
一口にニーズに応えるといっても、様々な切り口があって、それらを如何に価値のある提案ができるかが、重要となってきます。
|ユーザビリティー
マーケティングでは、ビジネスモデルをBtoC、BtoBなどと表現するケースがあります。
BtoCとは、Business to Consumerの略で、企業(business)と顧客(Consumer)の取引形態です。
同様に、BtoBとは、Business to Businessの略で、企業と企業の取引形態となります。
ベンカンのビジネスモデルは、BtoBです。
しかし、一口に、BtoBといっても様々な取引形態があるのが実情です。
例えば、製品が製造業者(B)から流通チャネル(B)に渡って、その後、顧客(C)の手に渡るのもBtoBです。
この場合は、間に入った企業の役割は、物流、販売などの代行業務になろうかと思います。
ところが、ベンカンのBtoBは、それとは異なります。
間に入る企業(B)の役割は、製品を使っての施工となります。
つまり、仮に製品をベンカン(B)から顧客(C)の手に渡ったとしても、そこに施工が伴いませんので、製品の価値は発生しません。
翻せば、施工を担われる企業次第で、顧客に渡る製品価値が左右されることになります。
例えたら、高性能のスポーツカーを開発しても、それを乗りこなせる技術のあるドライバーが存在しなければ、レースで勝てないということになろうかと思います。
そもそもベンカンの事業の始まりは、高い技術と高額の設備が必要なために産業用にしか使用されなかったステンレス配管を一般配管に普及させることが目的でした。
そのため一般配管に準じた技術と設備があれば施工が可能なメカニカルジョイントを開発して来ました。
その製品開発においては、製品そのものの高い性能は当然ながら、施工業者様が、その性能を発揮できるような施工のし易さなども考慮することが大切になります。
そのためにも、開発側の身勝手な製品ではなく、「ユーザビリティ(usability)」を追求した製品開発を重要視しております。
「ユーザビリティ」とは、「特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い。」と定義付けられています。
ベンカンにとっての特定のユーザーとは、施工を託させていただく、施工業者様です。
そのためにも、今後も、「ユーザビリティー」を考慮した開発を続けると共に、決して販売して終わりではなく、アフター管理としての施工講習会の開催やご意見の聴取など、アフターフォローも大切にいたします。
我妻 武彦(Takehiko Wagatsuma) 代表取締役社長